歯周病が認知症を悪化させる? 歯周病予防と治療のポイント
高齢者問題
歯周病が認知症のリスクを高める?
近年の研究でお口の病気として知られる歯周病が認知症を悪化させることがわかってきました。歯周病は虫歯と異なる病気で、細菌によって歯肉が炎症する症状を指し、日本人が歯を失う原因の最多を占めています。厚生労働省の「歯科疾患実態調査」によると、年代が上がるほど歯周病と診断される人の割合は増えており、2022年には75歳以上の半数を超える人に4mm以上の歯周ポケットが見られ、程度の違いはあっても歯周病に罹患していることがわかりました。
認知症のリスクは高齢になるほど高まりますが、歯周病の治療や予防が認知症予防にもつながると考えられます。そこで、今回は歯周病の概要と認知症リスクの関係に加え、歯周病を予防するための対策について解説します。
そもそも歯周病とは、どんな病気?
歯周病とはどのような病気でしょうか? 歯周病は歯周病菌による歯肉や歯槽骨(しそうこつ:歯の根っこを支えるあごの骨)の感染症で、風邪のような他の感染症と違って日常生活に影響する症状が少ないという特徴があります。しかし、放置してしまうと気づかないうちに歯肉や骨がもろくなって徐々に溶け、歯を失ってしまいかねないばかりか糖尿病や認知症、動脈硬化などの全身をむしばむ病気につながるリスクもあります。
歯周病の原因菌である歯周病菌は、歯と歯肉の間にできる歯周ポケットにたまるプラーク(歯垢)の中に棲みつき、歯肉に炎症を起こすことによって歯を支える組織を破壊します。やがて、血管が破れて出血するようになり、それでも対処せずに放っておくと、最終的には歯槽骨が溶けて歯を失ってしまいます。このプロセスは非常にゆっくりと進み、痛みを感じることはほとんどないものの、次のような自覚症状が現れます。
・歯を磨くと出血する
・歯のぐらつき
・口臭
・歯肉のむずがゆさ、痛み、赤い腫れ
・硬いものが噛みにくい
・歯が伸びたように感じる
・前歯が出てくる、歯の間にすき間ができる、食べ物がはさまる
歯周病がさまざまな病気を引き起こす、そのメカニズムとは
歯周病は歯を失うリスクとなるだけでなく、全身の健康を損なう原因となるおそれがあります。そして、そのひとつが「菌血症」です。これは歯周病菌が粘膜のキズなどから血管内に侵入し、血液を介して菌とその毒素が体内をめぐり、臓器にダメージを与えるというものです。また、歯肉が破壊されると歯周ポケットの内部がただれて潰瘍(かいよう)ができますが、潰瘍になった部分から歯周病菌が毛細血管に侵入したり、口から飲み込んだ菌が様々な経路で体内に広がったりすることも考えられます。
歯周病によって炎症を起こした歯肉は、わずかな刺激でも出血しやすくなり、歯みがきや糸ようじの使用などで菌血症となります。このことから歯周病患者には常に全身疾患のリスクがあるといえるでしょう。実際に、歯周病菌は動脈硬化がある人の血管内やアルツハイマー病患者の脳組織内などでも検出されています。また、近年では歯周病が糖尿病や心筋梗塞、脳梗塞や認知症などの病気を悪化させる要因であるとも考えられています。
歯周病とアルツハイマー型認知症の関係
現在、様々な研究によって歯周病がアルツハイマー型認知症のリスクを高めることが解明されています。国立長寿医療研究センターの研究によれば歯周病の人は、そうでない人より認知機能が低下していることが確認されました。また、台湾で行われた10年におよぶ調査でも、慢性歯周炎の人はアルツハイマー病の発症リスクが1.7倍も高くなることが報告されています。
さらに、アルツハイマー病患者の脳組織からは歯周病菌の代表的な毒素が高確立で検出され、正常な脳組織からは検出されないことがわかっています。他にも歯周病菌を投与して意図的に歯周病を発症させたマウスは認知機能障害が悪化し、アルツハイマー病の原因物質であるアミロイドβが脳内で増えることが確認されました。これらのことから歯周病の治療や予防は認知症の予防にも有効であると考えられます。
認知症を防ぐためにも歯周病を予防しよう
歯周病を予防する方法の基本として挙げられるのが、その原因となるプラーク(歯垢)コントロールです。プラークは無数の細菌が集まったかたまりで、唾液の成分と結びつくことで石灰化し、やがて歯石に変化してしまいます。歯石があると歯に汚れが付着しやすくなりますが、歯石は歯科で除去してもらうしかありません。
したがって、まずはプラークが溜まらないように、普段からケアすることが非常に重要です。高齢者の歯周病予防では以下のポイントを参考にしてください。
●日々のプラークコントロール
高齢者は歯間が広くなりがちです。歯みがきだけでなく、歯間ブラシやフロスを使ってプラークを除去しましょう。介助が必要な人には歯間ブラシがおすすめです。
●定期的な歯科受診
かかりつけの歯科医師を持つようにし、最低年1回は定期健診を受けるようにします。移動が難しい人は、往診ができる歯科医をかかりつけにすると良いでしょう。自治体によっては住民を対象とした無料の歯科検診を行っていたり、保健所や医療相談窓口で地域の医療機関の案内などを行っているところもあります。お住いの自治体のホームページを確認してください。
●生活習慣の見直し
栄養バランスの良い食事、良質な睡眠、適度な運動、ストレス管理を心がけましょう。喫煙は歯周病を悪化させるので控えるようにします。
●薬の影響に注意する
免疫を低下させる薬を服用している場合、より丁寧な口腔ケアが必要です。
●腸内環境を整える
免疫を維持できれば歯周病菌が体内に入っても身体への影響を抑えることができます。発酵食品を積極的に摂取して腸内環境を整えましょう。
歯周病予防のケアは習慣づけが欠かせません。また、歯周病は自覚のないまま進むこともあるので、認知症を予防するためにも歯科医を定期的に受診したいですね。
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