後期高齢者医療を考える。認知症で高額療養費、自立支援医療制度は使える?
高齢者一人暮らし
高齢化とともにふくらむ医療費
2025年には、団塊の世代全員が75歳以上となります。わが国では75歳以上の高齢者、すなわち「後期高齢者」の人口が増え続けています。それに伴い、問題視されているのが医療費です。後期高齢者になると、個人差はあるものの何らかの病気や体調不良に見舞われることが多くなり、医療機関を受診する機会が増えます。そのため、医療費は社会全体や各世帯において大きな負担となっていきます。
また、老後に収入が減少する方も多く、後期高齢者になると認知症のリスクも高まります。認知症になるとさらに医療費の負担が重くなるため、すでに後期高齢者の方やこれからその対象となる方にとって、医療費は大きな不安要素であることは否めません。
実は、高齢者の医療費負担を軽減するために、各種の公的な減免制度が用意されています。こうした制度を賢く活用し、適切な医療を受けることが求められます。後期高齢者はもちろん、将来対象となる可能性がある本人やご家族も、医療費の負担を軽減するための制度についてあらかじめ把握しておくことが望まれます。
老後と認知症の医療費はどれくらい?
高齢になるほど医療費はかさみ、特に認知症の場合はその増加が著しいといわれていますが、具体的にはどの程度の負担となるのでしょうか。2023年度の厚生労働省のデータによると、年代別で1人あたりの医療費の年間平均額は75歳以上で96万5千円、これに対して75歳未満では25万2千円でした。つまり、後期高齢者の年間医療費は他の年代のおよそ4倍となっています。この平均額は健康保険による給付費と患者の窓口負担金の合計で、実際に患者本人が負担する自己負担額はおよそ1割から3割となっていますが、高齢になると医療費全体の負担が大きくなることがわかります。
また、認知症の場合の医療費について、2014年に慶應大学と厚生労働科学の共同研究グループが行った推計では、1人あたりの外来医療費は月額3万9千6百円、入院医療費は月額34万4千300円となりました(こちらも給付費と自己負担金の合計で、自己負担額はおよそ1割から3割です)。このように、認知症の治療は高額になるため、既に持病などで受診している場合、医療費が加算される可能性があります。さらに、これらは医療費のみの試算であり、介護費用は別途かかることにもご留意ください。
医療費が高額になったときに利用したい制度
後期高齢者医療制度により、75歳以上の医療費の自己額は原則1割ですが、場合によっては2割(現役並みの所得がある場合は3割)となります。しかしながら、本人やその家族にとって、これらの費用を実際に目にすると不安を感じることもあるでしょう。そこで、知っておきたいのが「高額療養費制度(以下、高額療養費)」です。
高額療養費制度は、認知症に限らず、病気やケガで医療機関や薬局を利用した際に発生する高額な医療費に対して、患者の自己負担額に上限を設ける制度です。具体的には、1ヶ月(毎月1日から末日)の間に支払った医療費が、定められた自己負担限度額を超えた場合、その超過分については、加入している保険組合などの保険者が負担し、患者本人に支給されます。この限度額は、年齢や所得に応じて決定されます。
このように高額療養費制度は、国民が安心して医療を利用できるように設計されていますが、2024年11月から厚生労働省の審議会において、2025年8月に向けた制度の見直しが議論されていました。自民党が検討していた見直し案には、後期高齢者などの自己負担限度額の引き上げが含まれていましたが、がん患者団体などからの強い反発、低所得の高齢者への負担増、受診抑制による健康悪化の懸念などを踏まえ、制度改正は凍結・見送りとなっています。
なお、この制度を利用するには申請が必要となり、加入している保険組合などが申請窓口や問い合わせ窓口となります。後期高齢者の場合は、後期高齢者医療広域連合に申請してください。なお、限度額や申請方法の詳細については、市(区)町村の後期高齢者医療制度担当窓口にお問い合わせください。
高額療養費制度の概要と適用条件とは
後期高齢者が高額療養費制度を利用する際の概要や適用条件について説明しましょう。後期高齢者医療制度に加入している75歳以上の方は、1ヶ月(1日から末日まで)の医療費における自己負担額が、所得区分に応じた限度額を超えた場合に本制度の対象となります。この自己負担限度額の計算方法は、70歳以上と69歳以下で異なり、後期高齢者には70歳以上の限度額が適用されます。
70歳以上の所得別限度額は6段階に区分されています。たとえば、後期高齢者の中で一般的とされる年収156万円〜約370万円の場合、1ヶ月の自己負担限度額は、個人単位での通院時は1万8千円、世帯単位で入院および通院時は5万7千6百円となります。なお、過去12ヶ月の間に3回以上高額療養費の支給を受けた場合は「多数回該当」となり、4回目以降の自己負担限度額が軽減されます。
支給方法としては、1ヶ月の自己負担額が限度額を超えた分が、後から保険者により支給される形となります。初回の利用時のみ申請書が送付され、以降は自動的に指定の口座に振り込まれます。
また、本制度の利用にあたっては、以下の点にご留意ください。
・対象外となる費用
入院時の食事代、患者の希望による差額ベッド代、先進医療にかかる費用などは対象外です。
・世帯合算
同じ世帯内で複数の医療機関を受診した場合、自己負担額は「世帯合算」として計算され、限度額を超えた分が支給されます。ただし、75歳未満の家族の分は合算されません。
・誕生日月の特例
月の途中で75歳になった場合、その月の自己負担限度額は通常額の半額となります。
この制度を利用することで、後期高齢者の医療費負担を軽減し、安心して医療サービスを受けることが可能となります。詳細や最新の情報については、お住まいの自治体や後期高齢者医療広域連合の公式サイトなどでご確認ください。
後期高齢者が高額療養費制度を利用するには 申請手続きと必要書類
75歳以上の後期高齢者については、制度利用にあらかじめ申請する必要はありません。対象となる方には、受診した月の翌月以降、4ヶ月目以降に後期高齢者医療広域連合より申請書が送付されます。申請書に同封された返信用封筒に、居住する市区町村の後期高齢者医療制度担当窓口へ必要書類を同梱の上、郵送します。また、直接窓口に持参しての申請も可能です。
申請の際に必要となる書類は以下の通りです。
●高額療養費支給申請書:広域連合から送付されたもの
●申請者本人の確認ができる身分証明書:資格確認証、マイナンバーカード(マイナ保険証)、保険証、パスポート、運転免許証など
●被保険者本人の個人番号(マイナンバー)が確認できるもの: マイナンバーカード、マイナンバー通知カードなど
●支給先の口座情報が確認できるもの: キャッシュカード、貯金通帳など
(なお、マイナポータル等に登録済みの公金受取口座を使用する場合は不要です。ただし、利用できるのは被保険者本人のみです。)
●委任状:代理人が申請または受領する場合のみ
手続きの詳細については、後期高齢者医療広域連合から送付される申請書類をよくご確認ください。不明な点がある場合は、地元の市区町村の後期高齢者医療制度担当窓口、または各都道府県の後期高齢者医療広域連合にお問い合わせください。
制度の限界と利用時に注意したいこと
高額療養費制度は、いざという時に頼りたい制度ですが、万能ではありません。医療機関等に支払った費用のうち、制度の対象外となるものもあるため、この制度を利用しても経済的負担が大きくなるケースが考えられます。
たとえば、長期入院や長期療養の場合、入院時の食費、差額ベッド代(いわゆる個室利用料)、介護療養型医療施設での居住費や光熱費相当分は支給対象外です。さらに、医療費であっても、先進医療などの自由診療にかかる費用、一部の薬代、装具、備品なども対象外となります。したがって、入院や治療が長引けばこれらの費用が積み重なり、負担が増大することになります。
また、低所得世帯の場合、たとえば70歳以上で住民税が非課税となる世帯では、月ごとの自己負担限度額が8千円から2万6千円程度となります。収入が年金のみの場合など、日常生活費とのバランスを考えると、全体の生活に対する負担は決して軽視できません。加えて、療養期間が長期にわたると、支給対象外の費用負担がさらに重くのしかかります。
後期高齢者は、一度病気やケガをすると治療が長引くことが多く、入院や療養の際には上述のような負担リスクを伴う可能性があることを考慮すべきです。特に所得の低い世帯にとっては、限度額であっても負担割合が無視できないものとなります。したがって、高額療養費制度に過度な期待を寄せるのではなく、制度利用にあたって支給対象となる費用と対象外となる費用を十分に確認する必要があります。さらに、日頃から健康に気をつけるとともに、民間の医療保険などによる備えも検討することが大切です。
減額認定証と限度額適用認定証はいつまで使える?
これまで、高額療養費制度を利用する際に便利だったのが、減額認定証と限度額適用認定証でした。これらの認定証は、医療費が高額になることが予想される場合、病院などの窓口で保険証とともに提示することで、支払いを自己負担限度額までに抑えることができます。
令和6年12月以降、後期高齢者医療制度では、減額認定証と限度額適用認定証の新規交付が終了しました。現在は、マイナ保険証(保険証利用の登録をしたマイナンバーカード)による受診で、手続きなしに高額療養費制度を利用できるようになっています。現行の認定証をお持ちの場合、券面の記載事項に変更がない限り、令和7年7月31日までご使用いただけます。
令和7年8月1日以降、マイナ保険証をお持ちでない、または使用できない場合は、市区町村の後期高齢者医療制度担当窓口に申請することで、認定証に代わる資格確認書の交付を受けることができます。ただし、これまでに1回でも認定証や資格確認書を交付されたことがある方には、申請の必要なく送付されます。
詳しくは、市区町村の後期高齢者医療制度担当窓口にお問い合わせください。
認知症は自立支援医療制度の対象になる?
また、「自立支援医療制度」もあります。この制度は、心身の障害に伴う医療費の経済的負担を軽減することを目的としています。この制度が適用されると、医療機関、薬局、訪問看護などの利用時における自己負担額が、所得に応じて1割または3割となります。1割負担の場合、1ヶ月間に支払う医療費の上限が設定されますが、3割負担の高所得者には自己負担の上限がありません。全体として、低所得者に対しては手厚い支援が提供されている仕組みです。
この制度を利用するには、市区町村への申請が必要であり、認知症と診断された場合に申請すれば適用される可能性があります。なお、後期高齢者の場合は、大半の方の自己負担額が1割または2割となるため、認知症の治療目的で自立支援医療制度の申請を行う必要はないことも多いです。ただし、74歳以下で認知症を発症した場合や、精神疾患の既往歴がありその後認知症を発症した場合などは、医師の診断を受けた上で検討する余地があります。また、高所得者の場合は、高額療養費制度を利用した方が経済的負担を抑えられるケースもあるようです。したがって、後期高齢者が自立支援医療制度を利用する際には、所得や治療内容などを考慮して慎重に判断するべきでしょう。
老後の医療費に不安を感じている方は少なくありません。高齢者の医療費サポートについては、上記の制度に加え、自治体独自の支援措置を講じている場合もあります。不安がある場合は、自治体の窓口やケアマネジャー、病院のケースワーカーなどに相談することをおすすめします。
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