コロナが周知した嗅覚障害とは QOLへの影響や認知症との関係は
高齢者一人暮らし
高齢者は嗅覚の異常に注意を!
新型コロナウイルス感染の後遺症のひとつとして広く知られるようになった嗅覚障害。においが感じにくくなったりわからなくなったりする障がいです。嗅覚機能の低下は加齢によっても自然と起こり、パーキンソン病や認知症などの初期症状にも見られます。
嗅覚は生きていく上で重要な感覚です。嗅覚の障がいが生活の質(QOL)に与える影響は非常に大きく、嗅覚障害のある高齢者は寿命が短いことが報告されているほど。そのため、高齢になってからの嗅覚異常には注意が必要です。高齢者の嗅覚障害とその影響、認知症との関連について解説します。
においがわからない? 原因は加齢かも
そもそも、私たちはにおいをどのようにして感じるのでしょうか? 鼻の奥には嗅細胞と呼ばれる組織があります。ここでにおいの分子を取り込み、その情報を脳に送ることで感じるのです。
しかしながら、この嗅細胞が変性したり損傷したりすると、においを感じる嗅覚の機能が低下してしまいます。その原因となるのが、鼻の病気や風邪などの感染症、認知症、パーキンソン病などです。他の要因としては喫煙の習慣や糖尿病、動脈硬化といった生活習慣病などもありますが、加齢もまた嗅覚低下の大きな要因となります。嗅覚低下の原因となる疾患の多くが高齢者によく見られるものであることからも、高齢になると嗅覚障害のリスクが高まることがわかります。
加齢によって嗅覚が低下する主な原因は、嗅細胞の新生能力が衰えるためです。特に60歳を過ぎると顕著になり、アメリカで実施された広範囲にわたる調査では、65歳以上のおよそ14%に嗅覚低下があることがわかりました。残念ながら、加齢による嗅覚低下を完全に止めることはできませんが、原因となる疾患の適切な治療、禁煙や定期的な運動といった生活習慣の改善でリスクを抑えることは可能です。
嗅覚障害はQOLに大きく影響する?
危険を察知したり日々の生活を楽しんだりする上で、嗅覚は非常に大切な感覚です。嗅覚障害があると生活への様々な影響があり、ときには大きなリスクを招きます。例えば、嗅覚が低下すると、食品の腐敗臭やガス漏れ・煙などのにおいに気づかず、食中毒やガス中毒、火事のリスクが高まります。
また、嗅覚と味覚は密接に関連しているため、嗅覚が低下すると食べ物の風味が感じられず食欲が減退し、結果として栄養不足になる可能性もあります。さらに、味を感じにくくなることで、味付けが濃くなりがちになり、塩分や糖分の過剰摂取につながり、脳卒中や心筋梗塞などのリスクが増加します。
金沢医科大学の調査によると、運動機能が低下しているサルコペニアの人は、運動機能が正常な人に比べて嗅覚低下が多いことが明らかになりました。嗅覚の低下は食べることを楽しめなかったり、自分のにおいがわからない不安から、家にこもりがちになったりする原因にもなります。つまり、嗅覚低下は日常生活での活動レベルや運動意欲に影響し、さらには運動機能の衰えを進行させる可能性もあるということです。加えて、嗅覚障害のある人はない人に比べて寿命が短いという研究結果も報告されています。
このように、嗅覚異常は多岐にわたって健康や生活のリスクを招き、生活の質(QOL)の低下に大きく影響するのです。
嗅覚低下はこんな病気の初期症状である可能性も
加齢以外で嗅覚低下の要因となる疾患も高齢者にはよく見られます。中でも注目したいのが、認知症やパーキンソン病などの神経変性疾患の初期症状です。
アルツハイマー型認知症を含む多くの認知症では、認知機能が低下する前のごく初期に嗅覚障害が発生することが多いので、早めの受診で認知症を早期発見するための手がかりとなることがあります。一方で、日常生活の中でも出来立ての料理や花瓶に刺した花など、身近にあるもののにおいを意識して嗅ぐようにして、嗅覚を刺激することが認知症予防につながります。
また、パーキンソン病患者の多くは運動症状が現れる前に嗅覚低下を経験します。運動症状に先行して数年から十数年にわたり、嗅覚低下が起きることがあるため、こちらも早期発見の目安となります。
認知症やパーキンソン病の進行はQOL低下を招きます。少しでも早く発見して治療を始め、進行を遅らせることができれば、それだけ長くQOLを維持できるため、これらの病気は早期発見、早期治療が何よりも重要です。嗅覚異常はそのカギを握る症状でもあるのです。
高齢者の嗅覚障害への対応は
嗅覚低下は症状が少しずつ進むため、本人や周囲が気づきにくく、放置するとQOLの低下や事故の危険性が増します。しかし、現段階では加齢による嗅覚低下に対する有効な治療法まだありません。嗅覚障害のある高齢者への対応は生活の中で工夫することが中心となります。
例えば、食品類は食べる前に賞味期限を確認する、ガス漏れ防止のセンサーを設置する、料理はガスを使用しない器具で作る、味が濃くなり過ぎないよう、家族に味を確認してもらうなどです。これらの対策には本人が注意するだけでなく、家族をはじめとする周囲の協力も必要でしょう。
禁煙したり生活習慣病を治療したりするなど、加齢以外の要因を取り除くことも大切です。副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎が原因の場合は治療による回復や改善が期待できます。また、嗅覚低下はパーキンソン病や認知症の早期症状である可能性もあります。いずれも嗅覚に異常を感じた場合は早めに耳鼻咽喉科を受診するようにしましょう。カレーのにおいが感じにくい、いつも使っている柔軟剤の香りを感じない、周囲の人が気づくにおいがわからない、といったことがあれば、嗅覚障害が疑われるので受診の目安になります。
嗅覚の異常は自分でわかりにくいため、特に高齢者の嗅覚障害を早めに発見する際は、周囲の配慮も欠かせません。高齢の家族がいる人は「嗅覚は年齢とともに衰える」ことをよく認識し、料理の香りで感じたことを声に出して言うなど、日常生活の中でも意識するようにしましょう。
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