ワーキングメモリとはなにか? 日常生活でワーキングメモリを鍛えることの大切さと認知症予防への期待
高齢者一人暮らし
ワーキングメモリーとは「作業記憶」、短期記憶との違いは?
ワーキングメモリとは、一時的に情報を記憶しながら、それを同時に処理する脳の働きのことです。短期記憶と似ていますが、単に情報を覚えるだけでなく、思考や判断などの作業を同時に行う点が異なります。
短期記憶とは、短い時間だけ情報を覚えておく脳のしくみです。たとえば、電話番号を一時的に記憶するシーンがこれにあたります。一方、作業記憶(ワーキングメモリ)は、情報を覚えるだけでなく、同時に考えたり処理したりする脳の働きです。短期記憶は「覚えるだけ」、作業記憶は「覚えながら考える」というイメージで使い分けられます。
作業記憶は、暗算や論理パズルのように、複数の情報を一度に扱いながら結論を導く場面で働きます。逆にワーキングメモリがうまく働かないと、物の置き場所をすぐに忘れたり、会話の途中で話の内容がわからなくなったりします。
ワーキングメモリの機能は、脳の「前頭前野」という部分が担っています。前頭前野は、少し前に行っていた作業を記憶し、必要な情報を一時的に引き出して判断や行動に活かす、いわば「脳のメモ帳」のような役割を果たす部分です。そうしたこともあってか、ワーキングメモリは日本語では「作業記憶」と呼ばれます。
このメモ帳の枚数には限りがあり、誰でも一度に3〜4項目程度しか扱えないとされています。そのため、人は同時に多くのことを考えたり覚えたりするのには限界があるのです。
加齢でワーキングメモリは低下するが、鍛えられる
年齢が進むと、ワーキングメモリ(作業記憶)の働きが弱まりがちです。そのため、メガネなどをどこに置いたかすぐに忘れたり、会話の流れを見失ったり、知人の名前を思い出せないといった日常的な不便が増えていきます。
しかしながら、脳には可塑性と呼ばれる柔軟に変化する力が備わっており、意識して脳トレなどを行うことでワーキングメモリを鍛えることが可能で、計算問題やクロスワード、連想ゲームなどが推奨されています。さらに、日々の生活に「頭を使う習慣」を意図的に織り込むことで、脳のトレーニング効果が高まるといわれています。 また、アルツハイマー病のような認知症の初期段階では、適切な脳トレが進行を遅らせたり、症状を改善する可能性が期待されています。
ワーキングメモリには、脳の前頭前野を活性化させる役割があり、継続的なトレーニングにより、認知機能を維持・強化できるのです。前頭前野の機能低下を防ぐことで、認知機能全体の健康状態を保つことができます。
ワーキングメモリを鍛えるには、継続が重要になりますが、トレーニング自体はそれほど難しいものではありません。以下のような簡単な工夫で、日常的にワーキングメモリをトレーニングできます。
・歩きながら頭の中で買い物リストやTODO(やることリスト)を繰り返す
・家事の手順を声に出しながら行う
・新しい道を記憶してナビなしで移動する
・数独やクロスワードなどの脳トレパズルに取り組む、など
このようなちょっとした工夫を日常生活に加えるだけでも、認知症予防やワーキングメモリの維持が期待できます。ぜひ、無理のない範囲で取り入れてみてください。
*こちらの記事もご参照ください。
→〔アルツハイマー初期に光明?ワーキングメモリーを鍛えて認知症を予防改善〕
脳トレでワーキングメモリを鍛えよう
ワーキングメモリを鍛え、認知症を予防する上では、いわゆる脳トレも有効と考えられます。脳トレは認知的トレーニングとも呼ばれます。脳トレによって、脳の司令塔である前頭前野が活性化し、認知機能全体の維持・改善を促します。
米国において、平均73.6歳の高齢者2,800人以上を対象として、10年にわたり追跡研究したところ、認知的トレーニングを受けた人の認知機能が改善し、その成果は10年経っても維持されていたことがわかりました。このことから、脳トレには長期的な効果が期待できると思われます。WHO(世界保健機関)によるガイドラインでも、認知機能低下や認知症のリスク軽減策として、認知的トレーニングが推奨されています。
脳トレによるワーキングメモリの強化は、認知症予防の第一歩としても効果的で、日常生活の動作へのメリットも期待できます。たとえば、塗り絵やなぞり書きなど手を動かす活動は前頭前野を刺激するだけでなく、手先のリハビリとしても有効です。
脳トレの効果を得るには習慣化がカギになりますが、頻度としては週3〜4回、1回15分程度で十分とされ、多くの研究で効果が認められています。
具体的な方法としては、個人でも集団でも取り組めるものとして、漢字クイズや計算問題プリント、早口言葉などがあります。ネット上や書籍で数多くの脳トレのアイデアが提供されているので、気軽に取り組めそうなものを見つけてトライしてみましょう。
*詳しくはこちらの記事もお読みください。
▼認知症予防に効果がある脳トレ!どんなものがある?
ワーキングメモリを鍛えることは防犯にもなる?
近年、特殊詐欺や宗教団体による詐欺行為、悪質商法などの被害が高齢者を中心に増加しています。これらの犯罪被害には、実はワーキングメモリが関係しています。こうした犯罪の手口には、ワーキングメモリを意図的に圧迫する戦略が使われているのです。
ワーキングメモリは、一時的に情報を保持しながら処理を行う「脳のメモ帳」のようなものです。誰でも処理できる情報量には限界があり、複数のストレスフルな情報が一気に押し寄せると、考える余裕が失われ、冷静な判断が難しくなるのです。
特殊詐欺の犯人は、複数の人間を登場させたり、緊急性の高い情報を連続して与えたりして、被害者の脳のメモ帳をいっぱいにし、判断停止の状態に追い込みます。たとえ疑念を抱いたとしても、思考のメモリが使い切られていると、正常な判断ができなくなってしまうのです。これは誰にでも起こりうる現象ですが、ワーキングメモリは20代をピークに低下するとされており、特に高齢者は詐欺の標的になりやすいといえます。
このような状況を踏まえると、日常的にワーキングメモリを鍛えることは、詐欺被害の予防につながる重要な手段だといえるでしょう。
記憶と作業を組み合わせた脳トレや、人との会話、文章化によるアウトプット習慣は前頭前野の活性化を促し、ワーキングメモリの柔軟な運用能力を高めます。詐欺被害から自分や家族を守るためには、だまされない知識だけでなく、だまされない脳のコンディションを保つことがカギになります。日々の脳の使い方が、判断力という「生活のセーフティネット」を強化してくれるのです。
*こちらの記事もお読みください。
▼特殊詐欺や強盗! ハイブリッド化する犯罪手口にご用心
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