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見当識障害とはなにか? 症状や原因、リハビリなどを知っておこう

高齢者一人暮らし

ほとんどの認知症の人にみられる症状

見当識障害は認知症の中核症状のひとつです。
中核症状は脳の神経細胞がダメージを受け、脳の機能が衰えることによって直接的に起こる障害で、見当識障害のほかにも記憶障害や実行機能障害、失語、判断力の低下などが含まれます。
認知症はいくつかの疾患によって引き起こされますが、見当識障害はほとんどの認知症患者にみられます。
また、中核症状は1種類の障害だけでなく、見当識障害と記憶障害など重複して症状が出ることもあります。
見当識障害とは、自分のことや自分の周囲の環境や状況を正しく把握できなくなり、日常生活や社会生活をスムーズに送れなくなる障害をさします。
周囲の人からすると、認知症の人が理解しがたい言動をすることがありますが、見当識障害がその原因になっていることも少なくありません。
症状についての知識があれば家族が認知症になった時に気づくことができるので、早期に対応することができます。
今回は、認知症による見当識障害の原因や症状、そしてリハビリなどについてお伝えします。

見当識障害が起こる原因とは

認知症は脳の神経細胞がなんらかの原因で壊れたり、減少してしまったりすることで発症します。その原因となる疾患はいくつかあるのですが、原因疾患によってもタイプが異なるため、見当識障害の発生やメカニズムも認知症のタイプによって異なります。
例えば、日本でもっとも多い認知症はアルツハイマー型で、アミロイドβと呼ばれる物質が脳内に蓄えられることで発症します。アミロイドβの蓄積が進むと脳が萎縮し、見当識障害などの中核症状があらわれるのです。
アルツハイマー型認知症に次いで多いのが脳血管性認知症で、脳梗塞や脳出血によって脳がダメージを受けることで発症し、症状を発生させます。

見当識障害とは? その症状のあらわれ方

見当識とは「時間」「場所」「周囲の人との関係性」「状況」などを適切にとらえる能力のことです。 見当識障害はこれらの脳の働きが衰えることで、例えば今日の日付やいま自分がいる場所などを正しく認識できなくなるということです。
そのために、その場の状況にあわせた行動ができなくなるので、事故や人間関係のトラブルを招くこともあります。

見当識障害は認知症の中核症状の1つで、記憶障害とともに発症の初期の段階から起こりますが、症状のあらわれ方としては時間→場所→人物の順に見当識(感覚)が失われていきます。

まず、時間の感覚が薄れていきますが、当初は友人との待ち合わせや病院の予約などの時間に遅れるようになり、徐々に日付や曜日の感覚がなくなっていきます。
さらに進むと、朝・昼・夜の区別や季節感がなくなり「自分が何歳かわからない」「季節にあわせた服装ができない」といったことが起きます。

これに次いであらわれるのが場所の見当識障害で、道順障害と街並失認と呼ばれる症状がみられます。 道順障害は、行き先はわかっているものの、通り慣れた道でもどの方向に進めばよいかわからなくなるといった症状です。 また、街並失認は建物や景色自体を認識できなくなってしまい、いつも通っている道でも迷子になってしまうといったものです。

さらに症状が進み、記憶障害も進行すると、人との関係性についての見当識も失われていきます。
最初は人の名前を間違えるといったことから自分や周囲の人についての記憶がなくなっていき、最終的には友人や家族のこともわからなくなります。

見当識障害と似ているけど違う? せん妄とは

一見すると認知症の見当識障害のような、せん妄と呼ばれる症状がありますが、これは認知症による症状とは異なるものです。せん妄は、突然発症する精神機能の一時的な障害で、どの世代でも起きる可能性がありますが、高齢者に多く見られる症状です。薬剤、感染症、手術、代謝異常、電解質異常、アルコールの急な断酒など、さまざまな身体的・環境的ストレスが原因となり、脳の機能バランスが崩れることで発症します。脳内の大脳辺縁系と呼ばれる部分の過剰な興奮と、中脳や視床などの活動低下が関係していると考えられ、主にこのような症状がみられます。
・見当識障害:場所や日時がわからなくなる
・幻覚:実際にはいない虫などが見える
・注意障害:集中力の低下
・認知障害:記憶障害、言葉が出てこない

このように、せん妄と認知症はいずれも見当識障害を起こすことがありますが、その性質は大きく異なります。せん妄は数時間から数日で突然発症し、日内で症状が大きく変動するのが特徴です。注意力の低下や意識の混濁もともないやすく、認知症とは違い、原因が改善されれば回復が期待できます。

これに対し、認知症による見当識障害はゆっくりと進行し、症状は慢性的に悪化していきます。初期には意識は保たれており、主に記憶障害が中心です。また、根本的な回復は困難な進行性の病気です。
*こちらの記事もご参照ください。
認知症になれば必ず見当識障害が起きる? せん妄との違いと対応の仕方

ブレインフォグと見当識障害の関係

新型コロナ感染症の後遺症としても知られるようになったブレインフォグは、頭の中にモヤがかかったように、ぼんやりとしてしまい、考えることや集中することが難しい状態のことです。ブレインフォグは、新型コロナウイルスなどの感染症、慢性疲労、ストレス、不眠、栄養不足、ホルモンバランスの乱れなど、さまざまな要因により起こります。

たとえば、新型コロナ感染の後遺症としてのブレインフォグでは、まだ解明されていないことが多いものの、感染によって脳や脳神経が萎縮するなど、なんらかの変化により記憶や集中する機能が損なわれ、見当識障害や記憶障害、集中力の低下、思考力の鈍化などの症状が起こると考えられています。

ブレインフォグの症状は認知症によく似ており、また、高齢者はブレインフォグのリスク因子でもあるため、高齢者の新型コロナ感染症後にブレインフォグが起きた場合、認知症と混同されやすいものの、いくつかの点で区別することが可能です。
ブレインフォグは上述のような要因による一時的・可逆的なものが多く、原因を取り除けば改善しやすい一方、認知症は脳そのものに変性や損傷があるため、時間とともに進行します。さらに、ブレインフォグは日によって症状が変動し、病識があり、生活習慣の改善で回復することもあります。これに対し、認知症は少しずつ悪化し、病識が乏しく、改善は困難です。

このように、認知症とブレインフォグの症状は同じように見えても、その本質や対応方法は大きく異なります。いずれも食事・運動・睡眠・ストレス管理など生活習慣の見直しが重要ですが、認知症は予防が中心で早期発見がカギになります。ブレインフォグは原因に応じた対策で改善が期待でき、早めの対応が将来の認知症予防にもつながります。

*詳しくはこちらの記事もお読みください。
見当識障害とブレインフォグの関係とは? せん妄との違いは?

見当識障害によって起こるトラブル事例

見当識障害があると、時間や場所、周囲の状況、周囲の人についてうまく認識できなくなるために、日常生活や社会生活のなかで、次のようなトラブルを招くことがあります。

<時間の見当識障害によるトラブル>
・季節を感じにくくなるため、気候に適さない服を着たり、夏に暖房を入れて熱中症になることもある
・朝夕の感覚がなくなり、規則的に生活することがむずかしくなる
本人からすると食事や入浴などのタイミングが自分のペースとずれるので、介護者への不満や怒りを向けることもある

<場所の見当識障害によるトラブル>
・慣れた道や近所でも周囲の景観を認識できず、家に帰れなくなる
・症状が進むと、家の中でもトイレや浴室などの場所がわからなくなる

<人との関係性についての見当識障害によるトラブル>
・いま会っている相手の名前や自分との関係がわからなくなる
・友人や家族を認識できなくなり、自分の子どもを別人と思い込む

周囲を巻き込むトラブル、徘徊は見当識障害が主な原因?

認知症の数ある症状の中でも、特に周囲を巻き込むことが多いものが徘徊ですが、これには見当識障害が大きく関係します。見当識障害は認知症の初期から中期にかけて、多くの患者にみられます。自分のいる場所や時間、周囲の状況が正しく認識できなくなるため、本人は「今どこにいるのか」「ここはどこか」がわからなくなります。その結果、自宅や通い慣れた場所でも迷子のような状態に陥ってしまうのです。

認知症では、見当識障害に加えて実行機能障害も進行することがあります。実行機能とは、計画を立てたり、順序よく行動したり、状況に応じて判断を変えたりする脳の働きで、これが損なわれると行動のコントロールが難しくなります。たとえば、目的地に向かうための道順を考えたり、適切な行動を選んだりする力が低下します。

この二つの障害が重なることで、認知症患者は「どこかに行きたい」「家に帰りたい」と思っても、その場所を見つけることができず、また適切な行動ができないため、徘徊という行動異常に結びつくのです。

これは本人にとっては理由や目的のある行動ですが、周囲から見ると迷走や徘徊とうつり、本人も疲弊し危険にさらされてしまいます。介護する側としては、こうした背景を理解することで、徘徊行動に対して焦らず、本人の混乱や困難に寄り添った支援や安全対策を心がけることが求められます。

*詳しくはこちらの記事もお読みください。
徘徊の原因? 見当識障害や実行機能障害って、どんなもの?

見当識障害の進行を遅らせるリハビリの方法とは

認知症の症状の進行を止めることはできませんが、リハビリによって見当識障害の進行を遅らせることができます。また、リハビリをすることで患者本人の不安を減らし、トラブルや行動異常の改善も期待できます。見当識障害のリハビリ法はリアリティ・オリエンテーションと呼ばれるもので、こちらの2種類があります。

<24時間リアリティ・オリエンテーション> 介護者と本人の1対1で行う方法です。 「いまは何時何分か」「いま、どこにいる」「いま、誰といる」といった、時間や場所、人に関するリアルタイムの状況を認識できるよう、日々の生活の中のコミュニケーションで促します。

<クラスルームリアリティ・オリエンテーション> 専門スタッフが進行役になり、プログラムを元に数人のグループで行います。 カレンダーなどを使って現実の時間や場所などの情報をテーマに、集団で確認しながらコミュニケーションを進めます。

見当識障害のある人は周囲からは問題に思える言動をすることがありますが、それは、時間や場所、自分を取り巻く状況が認識できていないためです。 介護する側が見当識障害についての知識を持つことは、有効な対策をとることにもつながります。認知症の中核症状である「見当識障害」の本質を理解し、ホスピタリティをもって高齢者を見守ることがとても大切なのです。

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