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認知症になれば必ず見当識障害が起きる? せん妄との違いと対応の仕方

認知症見守り

認知症患者のほとんどにみられる症状とは

認知症にはさまざまな症状があり、ときとして周囲の人たちを困惑させるような発言や行動となってあらわれます。そうした言動は見当識障害によることが多いのですが、この障害は脳の機能が衰えることで「いまがいつ(何月何日何時)なのか」「自分がいる場所や行こうとする場所」「目の前にいる人が誰なのか」といったことがわからなくなるものです。

見当識障害は認知症の中核症状のひとつで、認知症患者のほぼ全員にみられます。中核症状とは、脳細胞の壊死や脳機能の低下によって直接引き起こされる症状のことです。見当識障害以外には「記憶障害」「理解力・判断力の低下」などがあり、患者本人の性格や周囲の環境に影響されて生じる「妄想」「幻覚」「徘徊」などの周辺症状と区別されます。また「せん妄」と呼ばれる見当識障害と混同されることの多い症状もあります。

見当識障害の改善はむずかしいとされていますが、周囲の配慮や対応の仕方によっては進行を遅らせたり穏やかに過ごすことも可能です。
見当識障害の原因や進行の仕方、せん妄との違い、見当識障害がある人への対応策についてお伝えします。

見当識障害の原因は? 症状は進行する?

見当識とは時間や場所・方向、自分と他者との関係性など、自分の周囲の状況を認識する能力のこと。この能力が損なわれるのが見当識障害ですが、その原因は認知症の原因となる疾患によって異なります。例えば、日本人に最も多いアルツハイマー型認知症では、脳内のアミロイドβというタンパク質の蓄積が主な原因です。このタンパク質の蓄積により脳の萎縮が進み、見当識障害をはじめとする中核症状が発生します。

見当識障害は記憶障害とともに認知症発症の早い段階からあらわれ、「時間」「場所・方向」「人との関係性」の順に障害が進み、具体的には次のような症状がみられます。

●時間を把握できない
今日が何月何日なのか、現在が何時なのかが理解できなくなるため、約束の時間を守れなくなったり、予定通りに行動することがむずかしくなります。

●場所を把握できない
自分がどこにいるのか、自宅や公共スペースのトイレの場所などがわからなくなります。周囲の風景を認識できず「通い慣れた道に迷う」「徒歩では行けない遠方へ歩いて行こうとする」などの行動がみられます。

●人間関係の認識の混乱
自分と家族や他人との関係が認識できなくなり「自分の妻を『お母さん」と呼ぶ』「亡くなった親に会いに行こうとする」「自分に子どもがいることを忘れる」といったことがあります。

●季節感の喪失
時間や場所を把握できなくなることで、季節感も失われます。夏なのに厚着をする、寒いのに暖房を入れないなど、季節に合わない服装や行動がみられます。

これらの症状のうち、認知症患者のすべてに起こりやすいのが時間と場所の見当識障害です。また、障害が進行するにつれて症状は深刻化し、人間関係のトラブルを招くなど日常生活に大きな影響を及ぼします。

せん妄は見当識障害とどう違う?

ここで、せん妄と認知症による見当識障害の違いについてみておきましょう。
せん妄と見当識障害は「症状が急性か」「意識障害の有無」において、大きく異なります。

せん妄は薬の副作用、手術、感染症などが原因で生じる軽い意識・注意障害で、短期間のうちに発症し、幻覚や幻視、妄想、錯乱といった精神症状をともない、数時間から数日の間で症状が変動します。
せん妄は誰にでも起きる可能性がありますが、とくに高齢者に起こりやすく、手術後など入院中に生じることがあります。せん妄があるとその症状から見当識障害のように見えたりしますが、あくまでも一時的な急性の意識障害です。

これに対し、見当識障害は時間や場所の把握が困難な認知や記憶の障害で、その症状は継続して少しずつ進行し、意識は基本的にはっきりしています。

見当識障害がある人への対応とサポート

見当識障害があると「家の近くで道に迷う」「家族と他人を取り違える」「トイレの場所を間違える」など、周囲の人たちも巻き込んで混乱を招くことがあります。これでは介護する家族は大変ですが、最も混乱してつらいのは本人です。

お互いが疲弊しないよう、介護する側が病気の症状であることを認識し、振り回されないことが大切です。そのためには、以下のような対応が基本になります。

・不適切な行動や失敗に対し、責めたり怒ったりせず、おだやかに接する
・環境の変化をできるだけ減らす
・介護者がよりそい安心できる状況をつくる
・介護者だけで対処しようとせず、行政や医療機関などに相談する

また、以下のような対応が、進んでしまった症状の進行を緩やかにしたり穏やかに過ごせるようにするために行う見当識障害のリハビリになります。

●時間、季節を意識させる
時計やカレンダーで時間、日付を確認し、窓やカーテンを開けて自然光を入れて時間の感覚を養うようにします。「春になって暖かくなってきたね」など季節を感じさせる会話や植物を育てるなど、生活に季節感を取り入れましょう。

●記憶を補うサポート
家族写真やアルバムを見ながら話をしたり、自分史年表を作成するなどいっしょに記憶をたどり、自分や家族のことなど思い出す手伝いをします。

●失敗を減らす工夫を
例えば、トイレの失敗を防ぐにはトイレの場所にマークをつけたり、タイミングをみて声がけするなどします。

日々の生活の中で介護者といっしょにこうした取り組みを行うことは、症状の進行を遅らせることにつながります。
介護者は本人のプライドを傷つけないよう、ていねいな対応を心がけましょう。


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