地域包括ケアシステムとは? 終の棲家で高齢者が安心して暮らすための5つの構成要素
高齢者問題
安心して暮らせる終の棲家を得るために
「終の棲家」とは、人生の終わりを迎えるときまで安心して暮らせる住まいのことで、終の棲家をどう選択するかは最後まで自分らしく生きるために考えるべき重要なテーマといえるでしょう。日本財団が2020年に実施した「人生の最期の迎え方に関する全国調査」では、67〜81歳の人の約60%が自宅で、約34%が医療施設で最期を迎えたいと回答しています。
高齢化が進む現代社会においては老後と呼ばれる期間が長くなり、多くの人が人生の最後の何年かは介護や医療のサービスを必要とし、高齢者専用住宅や介護施設などに住み替えるケースも少なくありません。自分自身、あるいは高齢の家族が最期まで自分らしく過ごすためには、生活環境をどのように整えていけばよいのでしょうか?
そこで知っておきたいのが、「地域包括ケアシステム」という制度です。地域包括ケアシステムの考え方や全体像、高齢者の「終の棲家」を暮らしやすい場にするための具体的なサポートについてお伝えします。
地域で高齢者を支援する地域包括ケアシステムとは
地域包括ケアシステムは、少子高齢化が加速するなかでも、高齢者が住み慣れた地域で最後まで自分らしく安心して暮らしていけるよう、個々のニーズに応じて「住まい」「医療」「介護」「介護予防」「生活支援」の5つの側面から包括的なケアを提供する仕組みです。
高齢化の実情や社会環境は地域ごとに違いがあり、それぞれの特性に応じた柔軟な運用が求められるため、市区町村が主導して医療機関、介護事業者、住民らが連携し、地域社会全体で高齢者の自立支援と生活の質向上を目指します。
地域でさまざまなサービスを展開する事業者や人的資源を有効活用し、広く住民の参加を促しながら相互支援のネットワークを構築していくことが重要だといえるでしょう。
終の棲家を整えるための5つの構成要素
地域包括ケアシステムでは、高齢者の終の棲家を暮らしやすい場とするためにどのようなサポートが行われているのでしょうか? 「住まい」「医療」「介護」「介護予防」「生活支援」という地域包括ケアシステムの5つの構成要素について、具体的な支援内容を紹介します。
●住まい
地域包括ケアシステムにおいて住まいとは、自宅だけでなく高齢者住宅や介護施設などを含めた「生活の場」を意味し、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けるための基盤となる大切な要素です。
<具体例>
・住宅の提供や、賃貸住宅に入居するための保証手続きのサポート
・手すりの設置や段差解消など、バリアフリー化のための住宅改修を支援
・緊急時の安全対策として、見守りセンサーや緊急通報装置を導入する際のサポート
・自宅での生活がむずかしくなった場合、特別養護老人ホームなど高齢者向けの住まいの選択肢を提案
●医療
かかりつけ医と地域の基幹病院、リハビリ病院などの医療機関が連携し、個々の状態に応じて必要な医療サービスを提供します。
<具体例>
・かかりつけ医が中心となって日常的な医療を提供するとともに、ケアマネジャーや介護事業者と連携して健康維持をサポート
・訪問診療、訪問看護、緩和ケアなどを提供し、自宅療養を続ける高齢者や家族を支援
・終末期には主治医や訪問看護師が中心となって痛みの管理や精神的なケアを提供し、希望に応じて看取りにも対応
●介護
在宅もしくは高齢者施設で幅広い介護サービスを提供し、日常生活をサポートします。
<具体例>
・在宅介護サービス:訪問介護、デイサービスなど、一人ひとりの状態に応じた支援を提供。また、短期間の施設利用などのレスパイトケアを通じて家族の介護負担を軽減
・施設介護サービス:特別養護老人ホーム、介護老人保健施設などで日常生活全般にわたる支援を提供
●介護予防
高齢者が長きにわたって自立した生活を送れるよう、介護予防に取り組みます。
<具体例>
・健康維持のためのプログラムとして運動教室や健康相談などを運営し、介護が必要ない状態を維持したり、介護度が上がらないようにするための支援を提供
・サロン活動や趣味の集いへの参加を促すなど、高齢者の孤立を防ぐために地域交流を推進
・認知症カフェの運営や専門プログラムの提供により、認知症への理解を広めたり、認知症の予防や早期発見を促す取り組みなどを支援
●生活支援・福祉サービス
日常生活を支える各種サービスを提供し、高齢者の生活の質向上を目指します。
<具体例>
・買い物や掃除といった家事支援、食事の配達サービスなど日常生活を楽にするためのサービス
・車いす、介護ベッド、歩行補助具など福祉用品のレンタルや購入を支援
・成年後見制度の利用支援、悪質商法や詐欺から高齢者を守る相談窓口の設置などを通して財産や権利を保護
地域で安心して暮らすための相談窓口は?
地域包括ケアシステムは、「住まい」「医療」「介護」「介護予防」「生活支援」という5つの要素を組み合わせることで、高齢者が終の棲家を暮らしやすい場として整えられるようサポートします。生活の基盤となる「住まい」を中心に包括的な支援が提供されるため、住み慣れた地域で自分らしく安心して暮らせる環境の実現が期待できます。
こうしたサポートを受けたい場合は、地域包括ケアをコーディネートする「地域包括支援センター」に相談するとよいでしょう。高齢者やその家族が抱える生活全般に関わる悩みや困り事の解決を目指し、住まい、医療、介護などの各種サービスを受けられるよう調整してくれます。
そのほか、居住する市区町村の役所の介護保険課や福祉課、かかりつけ医や地区の民生委員なども相談に応じています。
地域包括ケアシステムはまだそれほど広く知られてはいませんが、高齢者の生活環境を整えるために大切な役割を担っており、支援を必要とする人は今後ますます増えていくと予想されます。
高齢になって生活に不安を感じている方、高齢の家族の介護に悩んでいる方は、まずは地域包括支援センターなどに相談されるとよいでしょう。
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