レカネマブとは? アルツハイマー型認知症新薬が遂に承認!
認知症見守り
認知症治療の新薬が承認
2025年には65歳以上のおよそ5人に1人が発症していると予想されるなど、今や認知症は国を挙げて取り組むべき問題となりつつあります。そんな中、遂に日本でもアルツハイマー型認知症の治療薬として期待される新薬、レカネマブの製造販売が厚生労働省によって承認されました。早ければ年内にも使用が開始されます。
レカネマブには認知症の進行を抑える働きがあるといわれますが、その効果がどれほど期待できるのかは非常に気になるところです。そこで、レカネマブとはどのような薬なのか、投与の対象になる人、その効果や副反応、また、使用に当たっての課題などについてお伝えします。
レカネマブとは、どんな薬? 抗体医薬品とは
認知症はその発症原因によっていくつかのタイプに分けられます。日本人に最も多いとされるアルツハイマー型の認知症は、アルツハイマー病が原因となって引き起こされるもの。アルツハイマー病を発症すると脳内にたんぱく質の一種である「アミロイドβ」と呼ばれる物質が蓄積し、これにまとわりつかれた神経細胞が壊れて脳が萎縮することで認知機能が衰えると考えられています。
レカネマブは、このアミロイドβが脳に溜まるのを防いで排出し、認知症の進行を抑制する働きが期待される新薬です。日本でアルツハイマー病の原因物質に直接作用する薬が承認されるのは初めてです。この画期的な薬は年内にも患者への使用が始まる見通しですが、レカネマブを使った治療とはどのようなものでしょうか?
レカネマブは抗体医薬品の一種です。タンパク質の一種である抗体には、体内の異物を排除して病気を防ぐ働きがあります。このメカニズムを利用して病気の原因物質を攻撃する抗体を人工的に作り、病気を予防したり治療したりするために投与する薬が抗体医薬品です。通常、抗体医薬品は口から服用するのではなく、注射によって投与することが必要となります。レカネマブによる治療は事前に検査することで、脳内のアミロイドβの蓄積を確認して2週間ごとに静脈注射を行います。
気になるレカネマブの効果は? 副作用はある?
非常に気なるのはレカネマブの有効性です。承認に先立って行われた1年半にわたる臨床試験では、レカネマブが投与された患者の脳内で、アミロイドβが大幅に減っていることがわかりました。また、偽薬を投与した(レカネマブを投与されていない)人との比較では、投与された人の症状は進行する度合いが27%遅くなっていました。
このことから、レカネマブにある程度の効果があることはわかりますが、注意したいのが症状の進行を抑制することはできても、認知機能の改善は認められなかったということです。レカネマブの投与で溜まっているアミロイドβを排出することはできても、すでに壊れてしまった神経細胞を回復させることはできないのです。
承認前の臨床試験で対象となった人は約1800人と限られているので、実用化によって今後、この数値がどの程度増減するかは未知数です。そのため、現段階でレカネマブに期待できるのは記憶障害などの改善ではなく、あくまでも症状の進行を遅らせることといえるでしょう。とはいえ、症状の悪化を抑えることができれば、要介護度が進むのも遅らせることができます。その結果、介護施設に入所するのが先送りになり、自宅で暮らせる期間が長くなるといった、本人や家族のQOLに対するメリットはあると考えられます。
また、副作用の有無という点も、気になるところではないでしょうか。以前に開発された抗体医薬品の場合、副作用として脳内に水が溜まる脳浮腫や、血管が破れる脳出血を起こす可能性が指摘されていました。レカネマブの臨床試験では、全体の17%の人に脳出血があったことが報告されていますが、そのほとんどが軽症から中等症でした。実際の治療に使うとなると、試験の1年半より長く投与することになると思われますが、長期の使用については安全性もまだわかってはいません。
課題は早期診断、MCIの段階での受診がカギ
厚生労働省ではレカネマブ投与の対象を、アルツハイマー病を発症して間もない人と、認知症を発症する手前の軽度認知障害(MCI)の人としています。レカネマブがもたらす効果としていえることはアミロイドβの蓄積を妨げても、アルツハイマー病が進んで神経細胞の死滅や脳が萎縮した状態を回復させることは非常に困難ということです。したがって、認知症が進行してしまっている人は対象となりません。
このことから、レカネマブを効果的に使ってアルツハイマー型認知症の治療を行うためには、病気の早期診断が欠かせないということがいえます。認知症の症状が発生している時点で脳細胞はすでにかなりの損傷を受けています。そのためMCIの段階で受診するのが望ましいのですが、MCIの状態では全般的な認知機能が保たれていて日常生活にも支障がなく、本人も周囲も発症手前だと気づかないことがほとんどなのです。そのため、MCIを自覚して自ら受診する人は非常に少ないのが現状です。さらに現在は、MCIかどうかを調べるスクリーニング検査などが保険適用外で、実施している医療機関も限られています。
レカネマブの効能や副作用についてはまだ明らかになっていないことが多いものの、MCIかアルツハイマー病の早期に投与を始めれば効果が期待できるということはわかっています。それにはMCIや早期のアルツハイマー病の患者をどうやって見つけ出すかが課題といえます。レカネマブを有効活用するためには、MCI検査の拡充やMCIの啓蒙などが必要でしょう。
▼簡易版認知症チェック!認知症の初期症状?それともただの物忘れ?
▼認知症の初期症状が出たら、要注意!
▼嗅覚の衰えは認知症の初期症状
▼一人暮らしは寂しい? 生きがいと認知症予防
▼多剤服用が認知症につながる? サプリメントの取りすぎに注意?
▼ワーキングメモリーを鍛えて認知症を予防改善
▼アルツハイマー型認知症の初期症状を見逃さないために
▼アルツハイマー型認知症の予防法
▼BPSDって、なに? 周辺症状とは
認知症見守りのおすすめ記事
-
コロナが周知した嗅覚障害とは QOLへの影響や認知症との関係は
-
歯周病が認知症を悪化させる? 歯周病予防と治療のポイント
-
自律神経失調症と認知症の関係は? 高齢者は自律神経を整えることが大事!
-
認知症になれば必ず見当識障害が起きる? せん妄との違いと対応の仕方
-
認知症薬「レカネマブ」が保険適用に! 若年性アルツハイマーにも光明!
-
見当識障害とブレインフォグの関係とは? せん妄との違いは?
-
脳トレで快適な老後を! 高齢者の脳トレとワーキングメモリの関係とは
-
いま、期待されるグループホームの多機能化とは? 地域密着だからできること
-
スマホ認知症とは? デジタルデトックスのすすめ 高齢者の認知症の入口に?
-
グループホームとは? 高齢者の安否確認におけるメリットやデメリットを解説