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アデュカヌマブの国内承認に待望論 認知症は克服されるのか?

認知症見守り

せまる2025年問題、新しい認知症治療薬が登場

高齢者の人口が国全体の3割以上となる2025年まであと数年にせまり、認知症が社会的課題のひとつとなっています。同年には後期高齢者が爆発的に増加し、高齢者のおよそ20パーセントが認知症を患うようになることが予測されています。

認知症の高齢者が大幅に増加すれば、社会全体で介護や医療リソースがひっ迫すると考えられることから、認知症の克服は重要な課題といえます。そのようななか、最近アメリカで新しい認知症治療薬「アデュカヌマブ」が承認されたことが伝えられました。認知症治療のための新薬が承認されたのは実に18年ぶりのことで、わが国でも、アデュカヌマブは昨年末に承認申請されています。

日本でも承認されれば、認知症克服への一手となるのでしょうか? アデュカヌマブはこれまでの認知症治療薬とどう違うのか、また、承認された場合、認知症治療にどう使われるのか、注意点を含め今後の動向に着目します。

アルツハイマー病のメカニズムと治療薬の関係

アデュカヌマブとはどのような薬なのでしょうか? まず、留意しておきたいのがアデュカヌマブはすべてのタイプの認知症ではなく、アルツハイマー型認知症だけを対象にした薬であることです。認知症は原因となる疾患により、アルツハイマー型、脳血管性、レビー小体型、前頭側頭葉変性症の大きく4つに分類されますが、アデュカヌマブはアルツハイマー型以外の認知症には残念ながら有効ではありません。

それは、アデュカヌマブはアルツハイマー病の原因物質とされる「アミロイドβ(ベータ)」に直接作用するからですが、この働きが既存の認知症治療薬との大きな違いとなっています。アミロイドβは脳内で生成されるタンパク質の一種で、誰の脳内にも存在するもので、通常は不要なものとして短期間で分解、排出されます。しかし、加齢など種々の理由により排出されにくくなると、脳内に蓄積されて神経細胞にダメージを与える「タウタンパク質」が発生するようになります。これにより、神経細胞の働きが悪くなり、神経伝達物質の「アセチルコリン」が減少し、少しずつ神経細胞が壊れていき、その結果、脳が萎縮し認知症となってしまうのです。

アルツハイマー型認知症の薬物治療は、この発症メカニズムと深く関係します。これまで認知症治療に使われてきた薬はアセチルコリンの減少を抑えるというものです。そのため、認知症の症状が進行するのを遅らせることはできても、根本的な原因であるアミロイドβそのものを減らす働きはありませんでした。

従来の認知症治療との違いと期待される効果

これに対し、アデュカヌマブはアミロイドβに結びつき除去することを目的に設計されています。アルツハイマー病の原因に直接作用し取り除くことになるため、認知症の根本的な治療薬として注目を集めているのです。このことから、アデュカヌマブには認知症の進行を止める働きが期待されますが、万能薬とはいえないようです。
というのも、アデュカヌマブはタウタンパク質には作用せず、壊れてしまった神経細胞や脳の萎縮を回復させる働きも持っていません。そのため、神経細胞の破壊や脳萎縮が起きてしまったあとで、アデュカヌマブを投与しても脳神経のダメージにより失われた認知機能の回復は見込めないのです。むしろ、この薬の効果を得るには、タウタンパク質が発生する前のかなり初期の段階で使用することが望ましいと考えられます。

では、具体的にどの段階であれば、アデュカヌマブの効果が期待できるのでしょうか? アルツハイマー病は症状の進み方に応じて7つの段階に分類され、症状の最も軽いものをステージ1として、数字が大きくなるほど症状が重くなります。ここで、アデュカヌマブの治験が行われたステージ1から4の状態について説明しておきます。

ステージ1:精密検査などしないと異常を発見できない、まったく症状の見られない段階です。

ステージ2:本人は物忘れなどに気づき始めるものの、周りの人には変化はわかりにくく、仕事や生活には支障のない状態です。

ステージ3:新しいことが覚えられない、計画が立てられないなどの症状が目立ち始めますが、老化による通常の変化とアルツハイマー病による症状との区別がつきにくいケースもあります。

ステージ4:日常生活に支障をきたす状態で、この段階から認知症と診断されます。

MCIの段階での投与が効果的だが、問題も

治験では、ステージ2から4の人にアデュカヌマブを3年間にわたり投与したところ、ステージ2と3の人たちは症状が改善した一方で、ステージ4では現状維持もしくは認知症が進んでしまったとのことです。

この効果があったとされるステージ2・3はいわゆる「軽度認知障害(MCI)」にあたり、認知症の前段階から軽度の認知症へと移行していく時期ともいえます。効果がみられなかったステージ4は初期の認知症の段階です。このことから、認知症と診断されてしまった状態ではアデュカヌマブの効果は期待できず、MCIの段階で治療につながらなければ遅すぎるということです。

早ければ今年度末にアデュカヌマブは日本国内でも承認される見通しとなっています。アデュカヌマブが認知症治療の光となるにはMCIの段階での投与が欠かせません。しかしながら、その実行性については、早期にアルツハイマー病を確定診断しなければならないという検査技術などの問題や認知症の前段階の治療に保険適用できるのかといった制度上の問題もあります。認知症予防を意識しながら、動向を見守りたいところです。



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